目次
VUCAな時代
VUCAの事象
Volatility | Uncertainty | Complexity | Ambiguity |
変動性 | 不確実性 | 複雑性 | 曖昧性 |
IT技術の発展 | 政治経済、企業、サプライチェーンのグローバル化 | 世界中で情報が溢れている | 消費者の価値観は情報量の増加とともに多様化 |
社会の仕組み全体が急速にの変動 | 存在目的 (エボリューショナリーパーパス) | リソース(ヒト・モノ・カネ)の増加は、リスクの増加 | 過去の成功体験の再現性が乏しい |
消費者のニーズや購買行動は細分化 | 消費者行動などが多様化、タイムリーな商品やサービスを提供し続けることは至難の業 | 販売チャンスを逃してしまうため、見切り発車、曖昧なまま決断、実行 | |
人口ピラミッドを起因とする社会構造の変化 | 企業や組織のソリューションも多様化し複雑化 | ||
地球温暖化による気候変動や異常気象 | 地球規模で影響を受けている自然災害や感染症 | ||
デジタルデバイドと言われる情報格差 | 個人の人材論 組織の組織論 | 2025年の崖 DXへの取り組み | 消費者行動の購買行動モデルは過去の統計や経験が通用しない |
新たな生活様式 ニュー・ノーマル | 雇用制度 働き方改革 |
2020年版ものづくり白書では、パンデミック、貿易摩擦、保護主義、地政学リスク、自然災害等の「不確実性」を克服するために、我が国製造業が取るべき戦略を提示している。その戦略とは、環境や状況の急変に対応する「企業変革力」、特に設計力を、デジタル技術を徹底的に活用することによって強化することである。
第四次産業革命
2018 年版ものづくり白書 | 2019 年版ものづくり白書 |
4つの危機感 | 戦略 |
① 「人材の量的不足に加え質的な抜本変化に対応できていないおそれ」 ② 「従来『強み』と考えてきたものが、成長や変革の足かせになるおそれ」 ③ 「経済社会のデジタル化等の大きな変革期の本質的なインパクトを経営者が認識できていないおそれ」 ④ 「非連続的な変革が必要であることを経営者が認識できていないおそれ」 | ① 「世界シェアの強み、良質なデータを活かしたニーズ特化型サービスの提供」 ② 「第四次産業革命下の重要部素材における世界シェアの獲得」 ③ 「新たな時代において必要となるスキル人材の確保と組織作り」 ④ 「技能のデジタル化と徹底的な省力化の実施」 |
2018 年版、2019 年版白書では、デジタル技術革新が製造業に波及する中で、人材に求められるスキルの変化、各部署が部分最適に陥っているという問題、サービス化を含む新しい付加価値提供の動きの拡大等の状況を確認し、上記の危機感と戦略を提起してきた。
さらに、2020 年版のものづくり白書は、我が国製造業が、この不確実性の時代において取るべき戦略について、以下のとおり提起している。
不確実性の時代において取るべき戦略
① 企業変革力(ダイナミック・ケイパビリティ)強化の必要
② 企業変革力を強化するデジタルトランスフォーメーション推進の必要
③ 設計力強化の必要
④ 人材強化の必要
ケイパビリティ : capability (能力 才能)
オーディナリー・ケイパビリティ (通常能力) | ダイナミック・ケイパビリティ (企業変革力) |
技能適合力 | 進化適合力 |
ものごとを正しく行うこと | 正しいことを行うこと |
共特化の原理 補完性の原理 | |
利益(=売上―費用)を最大化する能力 | 付加価値=人件費+減価償却費+営業利益 を向上するために売上を伸ばす能力 |
堅固な組織 大企業に多い傾向 高いオーディナリー・ケイパビリティ 低いダイナミック・ケイパビリティ | 柔軟な組織 中小企業に多い傾向 高いダイナミック・ケイパビリティ 低いオーディナリー・ケイパビリティ |
オーナー企業は高いダイナミック・ケイパビリティを有する傾向にある | |
①様々な職務権限を各メンバーに帰属させる ②職務権限内容が明確に規定されている ③メンバーが特定の職務権限を保有する期間が長い ④職務権限の配分が公的に正当化されている(メンバーがもつ公的資格に合わせて組織内の職務権限が配分される) | ①職務権限を職務や地位に帰属させて、そこに人間を割り振る ②職務権限があいまいに規定されている ③メンバーが特定の職務権限を保有する期間が短い ④職務権限の配分が私的に正当化されている(メンバーがもつ公的資格に合わせて組織内の職務権限が配分されない) |
「堅固な組織」は効率性を追求することができるので、オーディナリー・ケイパビリティは高くなる傾向にある。 大きな変革を避けようとする。 | 能力の低いメンバーが温存されやすいという弱点がある。 「柔軟な組織」のオーディナリー・ケイパビリティは、低くなる傾向にある。 |
この能力しかもたない企業は、利益を上げるために、コストを下げる必要があり、それゆえ質の悪い安価な部品を外部から購入し、安価な機械を使って減価償却費を減らし、安い賃金で人を雇用するので、企業は劣化していくことになるだろう。 | 付加価値を高めるには、より優れた人材を雇い、より良い機械設備を購入し、イノベーションを起こして売上自体を伸ばす必要がある。 |
オーディナリー・ケイパビリティを高めることが根本的に重要だがこれだれでは企業は競争力を維持できない | 高次のダイナミック・ケイパビリティが存在すれば必然的に低次のオーディナリー・ケイパビリティも存在していることになる。 |
ベンチマーク化されたベスト・プラクティスは他企業が模倣しやすく、特にグローバルな競争が激しい環境下では、急速に拡散する。このため、オーディナリー・ケイパビリティだけでは、持続可能な競争力を獲得することはできない。 | 資産を再構成(オーケストレーション)する企業家的な能力は模倣することが難しいものであり、 企業の長年の学習によって構築された文化・遺産の産物であるがゆえに、他企業には模倣困難なものとなり、かつ長期にわたって維持されるものである。 |
ベスト・プラクティスが洗練され、精緻化されていればいるほど、それを変えるコストは高くなってしまうので、現状維持の方が短期的には経済合理的になるという罠に陥ってしまうことすらある。 | 企業とそのトップマネジメントは、消費者の好み、ビジネス上の問題、そして技術発展の進化について推測を展開でき継続的なイノベーションや継続的な変化を可能にするための資産や活動を再構成することによって、その推測に基づいて行動できるようになる。 |
自社の強みが、弱みに転じて、企業を危機に陥れることがある。日本の製造業にとって不確実性が危険である理由も、まさにこの点にある。オーディナリー・ケイパビリティの高い製造業が、環境や状況の想定外の変化によって、一瞬にして、競争力を失うということが起こりうる | 環境や状況の変化に応じて、企業内外の資源を再構成して、自己を変革するダイナミック・ケイパビリティを高めることができる。 |
現状の企業行動が、環境や状況の変化に適合しなくなったかどうかを常に批判的に感知し、適合しなくなったと判断したならば、適合するように企業を変革することである。 その変革に成功すれば、企業は、新たに構築されたオーディナリー・ケイパビリティの下で、再び効率性を追求することができる。 | 3つの能力 感知(センシング):脅威や危機を感知する能力 捕捉(シージング):機会を捉え、既存の資産・知識・技術を再構成して競争力を獲得する能力 変容(トランスフォーミング):競争力を持続的なものにするために、組織全体を刷新し、変容する能力 |
業務効率化、コスト削減、安定稼働、品質管理 | 脅威や危機を感知 機会を捉え、既存の資産・知識・技術を再構成 競争力を持続的なものにするために組織全体を刷新し変容 |
サプライチェーンのダイナミック・ケイパビリティには課題がある
デジタルトランスフォーメーション : DX
デジタルトランスフォーメーションは、企業変革力を飛躍的に増幅させるものである。
なぜ?と思われる方が多いと思います。企業変革力を高める必要性や、どのように高めればよいのか、よくわからない。投資した効果や価値を見出せない、と思われていると思います。
デジタル化によって、社内業務の効率化を行っただけでは、費用対効果は少なめではないか。と思われていて正解でしょう。これだけでは投資する価値も薄れてしまいます。
投資した価値は、この次にあります。投資して得た効率化によって、得たリソース(ヒト、モノ、カネ)や工数、時間などを顧客のため、社会のため、社会貢献のために、何をどのようにしていくか?
この何をどのようにするかが、付加価値に繋がっていきます。
付加価値は、人件費+減価償却費+営業利益です。
この式から言えることは、営業利益を増大させることになります。人件費は優秀な社員を雇用し、または、外部委託して、減価償却費は優れた設備やデジタル化のためのシステムやアプリケーションを導入することで、今までより一つ上のサービスやできなかったことができるようになるので、顧客満足度の向上も期待できます。
そして、デジタル化によって、業務に関するデータが蓄積されます。このデータを統計・分析することで、勘に頼っていたことの裏付けや実は違っていたことを関係者で共有できるようになっていきます。熟練社員の技術の見える化による継承も可能になります。人材不足、後継者問題、人手不足にもデジタル化によって解決していけます。
データの統計・分析を活用することで、隠れていた課題があぶり出されて顔を出したり、新たな課題が明確になり、課題解決を重ねていくことで、企業変革力を高めることに結びついていきます。
デジタル技術は強力な武器になると言われている所以になります。
我が国企業は米国企業に比べて、「業務効率化 / コスト削減」のための「守りの IT 投資」に重点を置いており、IT を活用した新たなビジネスモデルの構築やサービスの開発を行うための「攻めの IT投資」が進んでいない。
オーディナリー・ケイパビリティに属する業務効率化、コスト削減、安定稼働、品質管理のための旧来型の基幹系システムの更新や維持を重視している。
デジタル技術が製造業にもたらす恩恵は、設備の安定稼働や品質管理体制の強化、あるいは人手不足問題の克服の上でも、IoT、AI を始め、オーディナリー・ケイパビリティの強化にとどまるものではない。
デジタル技術の活用によって、製造業が環境や状況の変化に対応するダイナミック・ケイパビリティを高めることもできる。
デジタル技術は、ダイナミック・ケイパビリティを、「感知」「捕捉」「変容」の三能力のいずれのも増幅させる。
感知 : AI は、環境や状況の変化を予測し、不確実性を低減するのに効果的。
捕捉 : 顧客体験価値を創造し、変種変量生産やマスカスタマイゼーションに有効。
変容 : 競争力を持続的なものにするデジタルトランスフォーメーション。
デジタル技術を徹底的に利活用することにより、オーディナリー・ケイパビリティのみならず、ダイナミック・ケイパビリティを強化することこそ、不確実性の高い世界における我が国製造業のとるべき戦略であるといえる。
デジタル技術が企業変革力を高める上での強力な武器であるという点を最大限に強調する。
エンジニアリングチェーンとサプライチェーンの強化及び両者の連携にはデジタル技術が不可欠
設計力強化の必要
不確実性に対応するには、製品設計と工程設計の双方を含むエンジニアリングに高い能力があることが求められる。エンジニアリングの能力は、製造業が不確実性に対応するダイナミック・ケイパビリティの中核を占めるものといえる。
製造工程は、
エンジニアリングチェーン : 研究開発-製品設計-工程設計―生産などの連鎖
サプライチェーン : 受発注-生産管理-生産-流通・販売-アフターサービスなどの連鎖
があり、製品や生産技術に関するデータは、この2つのチェーンを通って流れ、結びつき、そして付加価値を生み出す。
IoT を始めとする最新のデジタル技術は、双方のチェーンの各所において、データの利活用を進める優れたソリューションを提供し、製造業に画期的な革新をもたらす。
エンジニアリングチェーンにおいては、「R&D 支援」、「企画支援」、「設計支援」などがある。
サプライチェーンにおいては、「共同受注」、「技能継承」、「物流最適化」、「販売予測」、「予知保全」「遠隔保守」などがある。
最も重要なことは、エンジニアリングチェーンとサプライチェーンをシームレスにつなぐことによる、「生産最適化」さらには「マスカスタマイゼーション」(多品種大量生産)が可能になるだけでなく、「サービタイゼーション」(製品とサービスを統合し、新たな付加価値を提供するビジネスモデル)あるいは「ことづくり」(UX : ユーザー体験)といった新たなビジネスの設計もより容易になる。
製品の品質とコストの8割は、設計段階で決まると言われている。
できるだけ開発の初期段階であるエンジニアリングチェーンに資源を集中的に投入すること「フロントローディング」により、問題点の早期発見、品質向上、後工程での手戻りによるムダを少なくすることが決定的に重要になる。
製品が複雑化していけばいくほど、エンジニアリングチェーンに掛かる負荷はより大きなものとなり、製品の複雑化が進めば進むほどに、それに対応できるエンジニアリング能力の高さこそが、製造業の競争力を左右するといえる。
部門間の連携がとれている企業ほど、製品設計力、工程設計力が向上する傾向にある。
エンジニアリングチェーンとサプライチェーンを連携させるために必要な第一歩は、設計部門が設計を行う上で使用する設計部品表、製造部門が製造を行う上で使用する製造部品表、そして工程設計情報をまとめたものである工程表を結びつけて、各部門がこれらを共有することである。
原価実績情報も含めた製造情報を設計部門にフィードバックすることで、設計段階で精度の高い原価企画やシミュレーションを行うことも可能になり、品質不良の削減につながり、品質保証体制強化と生産性向上の両立を実現することが期待される。
「柔軟な組織」は、連携やコミュニケーションをより円滑に行うことができ、高いダイナミック・ケイパビリティを発揮できる組織である。
バーチャル・エンジニアリング(3D CAD)を用いることで、構想設計の段階で、検証も含めた詳細設計までが可能になり、リアルな試作の前に全ての仕様を決めることができるので、製品開発のリードタイムは、大幅に短縮することとなる。このようなエンジニアリングの手法は、「コンカレント・エンジニアリング」「サイマルテニアス・エンジニアリング」(複数のプロセスを同時並行で進める方法)とも呼ばれる。
バーチャル・エンジニアリングは、不測の事態に迅速に対応する能力であるダイナミック・ケイパビリティを著しく高めるのである。
人材強化の必要
デジタル化を進める場合にボトルネックとなるのはやはり、人材の質的不足である。製造業のデジタル化に必要な人材の能力として、システム思考と数理の能力を特定している。
さらに、デジタル化に必要な人材の確保と育成の方策について、労働政策の観点からは、デジタル技術革新に対応できる労働者の確保・育成を行い、付加価値の創出による個々人の労働生産性をより高めることが重要である。
出典 経済産業省 2020年版ものづくり白書
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Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の頭文字。
これらの要因により、現在の社会経済環境が不確実、複雑で曖昧で、カオス化した極めて予測困難な状況に直面しているという時代を表します。
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第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題 第2節 不確実性の高まる世界の現状と競争力強化 から抜粋
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IoT や AI といったデジタル技術は、生産性の向上や安定稼働、品質の確保など、製造業に様々な恩恵を与える。しかし、今回のものづくり白書では、デジタル技術が企業変革力を高める上での強力な武器であるという点を最大限に強調する。
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